退職理由には「自己都合」と「会社都合」があります。
失業保険を受給する際は「会社都合退職」の方が条件がいいというのは、みなさんも何となく知ってるのではないでしょうか。
実際、会社都合退職になれば失業保険の給付日数が増えたり、給付制限期間がなくなったりとメリットがあります。
でも「会社都合退職になるのは倒産や解雇のときだけでしょ?」と思ってる人も多いのでは?
実は、自己都合退職の人でも理由によっては会社都合退職にできたり、会社都合退職と同様のメリットを受けることができるんです。
退職理由には一般的な自己都合退職のほかに、特定受給資格者と特定理由離職者という区分があります。
特定受給資格者か特定理由離職者に該当すれば、会社都合退職と同程度のメリットを受けられます。
では、特定受給資格者か特定理由離職者になるにはどうすればいいのでしょうか。
特定受給資格者と特定理由離職者になる条件と、該当した場合のメリットを解説します。
↓今回の内容は動画でも解説しています。
特定受給資格者と特定理由離職者の違い
失業者は退職した理由によって、「一般離職者」と「特定受給資格者」「特定理由離職者」に分かれます。
「一般離職者」はいわゆる普通の自己都合退職のことで、「特定受給資格者」は倒産や解雇による会社都合退職のことです。
「特定理由離職者」は、特定受給資格者には該当しないけど「やむを得ない理由」で退職した自己都合退職者のことです。
一般離職者 | 一般的な自己都合退職者 |
---|---|
特定受給資格者 | 倒産や解雇による会社都合退職者 |
特定理由離職者 | 特定受給資格者には該当しないけど「やむを得ない理由」で退職した自己都合退職者 |
特定受給資格者と特定理由離職者は、失業保険の給付条件が優遇されます。
ここでは、特定受給資格者と特定理由離職者になるための条件・対象者を見ていきます。
特定受給資格者とは
特定受給資格者とは、倒産・解雇に準ずる理由で離職した人を指します。
特定受給資格者の対象になると、会社都合退職として扱われます。
次のような理由で退職した人は、特定受給資格者に当てはまります。
特定受給資格者の条件・対象者
【倒産など】
- 会社が倒産した
- 会社から大量の離職者が出た
- 事業所が廃止になった
- 事業所が移転し、通勤が困難になった
【解雇など】
- 解雇された(懲戒解雇を除く)
- 労働条件が契約と大きく違っていた
- 賃金の3分の1以上が期日までに支払われなかった
- 賃金が85%未満に低下した
- 残業時間が基準を超えていた(3ヶ月連続で45時間、1ヶ月で100時間、2ヶ月以上の平均が月80時間)
- 妊娠・出産・介護の制度利用を拒まれた、もしくは利用したことで不利益があった
- 常識的な配慮を行わず配置転換された
- 3年以上の有期労働契約が更新されなかった
- 更新される前提の有期労働契約が更新されなかった
- セクハラ・パワハラを受けた
- 退職勧奨を受けた
- 事業者による休業が3ヶ月続いた
- 事業者が法令に違反していた
こうやって見ると、かなり多くの理由が会社都合退職に該当するのが分かるでしょう。
自分が対象だと知らずに自己都合退職にした人もいるのではないでしょうか。
中でも残業時間が基準を超えていたり、セクハラ・パワハラによる退職は会社都合退職になる、というのは知っておいた方がいいでしょう。
特定理由離職者とは
特定理由離職者とは、特定受給資格者に該当しないけど「やむを得ない理由」で退職した人を指します。
特定理由離職者は自己都合退職ですが、対象になると失業保険で会社都合退職と同程度の優遇措置を受けられます。
次のような理由で退職した人は、特定理由離職者に該当します。
特定理由離職者の条件・対象者
【雇い止め】
- 有期労働契約が更新されなかった
【正当な理由による自己都合退職】
- 体力の不足・心身の障害・疾病
- 妊娠・出産・育児により離職し、受給期間延長措置を受けた
- 家族の看護・介護など、家庭の事情の急変
- 家族との別居生活(単身赴任など)が困難になった
- 結婚・育児・事業所の移転などにより通勤が困難になった
- 希望退職者の募集に応じた
会社都合にはならなかったけど正当な理由で退職した人は、この「特定理由離職者」に当てはまります。
特定受給資格者と特定理由離職者のメリット
特定受給資格者や特定理由離職者になると、失業保険の給付日数と給付制限期間で優遇措置が受けられます。
受けられる優遇措置は、次のようになっています。
退職理由 | 区分 | 給付制限期間 | 給付日数の増加 | |
---|---|---|---|---|
特定受給資格者 | 倒産・解雇 | 会社都合退職 | なし | 増える |
特定理由離職者 | 雇い止め | 会社都合退職 | なし | 増える |
正当な理由による自己都合退職 | 自己都合退職 | なし | なし | |
一般離職者 | 自己都合 | 自己都合退職 | 2ヶ月または3ヶ月 | なし |
まず、自己都合退職なら失業保険を受け取るまでに2ヶ月(5年以内3回目の退職からは3ヶ月)の給付制限期間があるのですが、特定受給資格者と特定理由離職者には給付制限期間がありません。
7日間の待期期間が終わればすぐに、失業保険の給付が受けられます。
失業保険をすぐにもらえれば、無収入の期間がなくなるのでありがたいですよね。
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さらに特定受給資格者と「雇い止め」による特定理由離職者は、失業保険の所定給付日数が増えます。
自己都合退職者なら最高で150日のところ、最大330日まで受け取れるようになります。
失業保険の総額が増えるのだから、このメリットは大きいですよね。
雇用保険加入期間 /退職時の年齢 |
1年未満 | 1年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|---|
全年齢 | ― | 90日 | 120日 | 150日 |
雇用保険加入期間 /退職時の年齢 |
1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ― |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
参考:基本手当の所定給付日数 - ハローワークインターネットサービス
失業保険以外でも、特定受給資格者・特定理由離職者にはメリットがあります。
特定受給資格者・特定理由離職者には国民健康保険と住民税の減免制度を設けている自治体が多いので、国民健康保険料と住民税を安くすることが可能です。
国民健康保険料と住民税は失業中とても負担になるので、減免できるならしておきましょう。
関連記事【国民健康保険の減免】失業したときに申請すべき減額・免除制度
関連記事失業で住民税は減免できる!無職が知っておきたい住民税の知識
自己都合退職を会社都合退職にするには
「自己都合退職を会社都合退職にする方法」が裏技のようにネットで出回ってたりしますが、要は「特定受給資格者か特定理由離職者になる」ということです。
特定受給資格者・特定理由離職者になるメリットは大きいので、自分が該当するならなっておいた方がいいです。
まずは会社を退職するときに、特定受給資格者か特定理由離職者にしてもらえないか確認しましょう。
こちらから声を上げないと、会社は自己都合退職として処理してしまいますよ。
関連記事会社都合退職のデメリット 会社がしたがらない理由は?面接で不利になる?
しかし、会社都合退職への変更を会社が応じてくれなかったり、会社都合なのに自己都合だと思い込んで手続きしてしまう人もいるでしょう。
なので、退職した後でも「会社都合になるのでは?」と思ったら、ハローワークに相談してみましょう。
特定受給資格者・特定理由離職者に該当するかは、会社の判断や自己判断ではなく、あくまでハローワークの判断で決まります。
会社が自己都合退職として処理しても、裏付けが取れればハローワークが特定受給資格者・特定理由離職者に変更してくれます。
たとえばセクハラ・パワハラで退職した場合は特定受給資格者にできますし、うつなどのメンタル不調で退職した場合は特定理由離職者にできます。
資料の提出などの手間は必要になりますが、試してみる価値はあるでしょう。
特定受給資格者・特定理由離職者になれば失業保険の受給条件がよくなるだけでなく、国民健康保険料・住民税のダウンにもつながります。
自己都合退職から会社都合退職に変えるメリットは非常に大きいので、ぜひ試してみてください。